吊り物の落下防止のための安全対策

[7] 吊り物の落下防止のための安全対策

平成18年8月1日

 平成18年4月28日、コンサートの準備作業中、スピーカーを吊っているナイロン・スリングが破断して総重量約1トンのスピーカーおよび吊り部材などが落下し、下で作業をしていた女性スタッフ1名が重傷を負いました。

NPO法人 日本舞台技術安全協会は今回の落下事故を極めて重大に受け止め、二度とこのような悲惨な事故が起きることのないように、現在行われている吊り作業の実態を調査し、実験を行い、遵守すべきガイドラインを策定しました。

会員の皆様におかれましては、このガイドラインを熟読し、必要な部材規格や技術資料を入手し、それぞれの安全範囲の中で作業することは言うまでもありませ んが、更には各部材の弱点を充分に理解して、使用目的やその環境条件を常に把握して作業されることを強くお願いするものです。

会員各位、および当業界で同様の作業に携わる皆様には、本ガイドラインを充分にご理解していただいた上で、二度とこのような落下事故を起こさないという強い覚悟で作業にあたっていただけることを、深く念じております。


(1)コーナー保護(角張ったコーナーへの当て物)の使用

吊り元の部材のエッジ部の半径が小さいとスリング及びワイヤーが損傷を受けやすくなり、使用可能な荷重は定格荷重よりずっと小さくなる。* 吊り元には必ずコーナー保護材を使用すること。**(通常使用されているパンチカーペットは、養生材で保護材としては不向き)

* メーカー(日本)の技術資料によれば、ラウンドタイプのナイロン・スリングは、エッジ部の半径が5mm未満の場合、使用荷重は定格の30%以下となり、5mm以上10mm未満でも定格の70%以下となってしまう。



** コーナー保護の例。

チョーク吊り
バスケット吊り
角度のあるバスケット吊り

(2)三点吊りの推奨 重量物(スピーカー、LEDなど)の吊りの場合は2点吊りを極力避け、可能な限り3点吊りとすること。

(3)金属製ワイヤー、リンクチェーン、H鋼用ビームクランプ等の使用の推奨

重量物(スピーカー、LEDなど)の吊りの場合、あるいは火薬、花火などの特効が予定されている場合においては、吊り元にはスティールワイヤ−、ワイヤ−スリング、リンクチェーン、H鋼用ビームクランプ***などの金属製部材を使用すること。

やむを得ずナイロン・スリングを使用せざるを得ないような場合においては、必ずスティールワイヤなどでセーフティを施すこと。その場合は余長をできるだけ短くして、落下時の衝撃荷重を小さくしなければならない。

*** H鋼用ビームクランプはH鋼に保護材を使用せず直接取付けるため、H鋼の塗装が剥がれる。(H鋼強度問題無し)したがって使用にあたっては事前に会場施設側の許可を得る必要がある。必要に応じて本ガイドラインを提示し、理解を求めることが望ましい。



(4)吊り角度と負荷荷重

ワイヤー、スリング等の吊角度によって、部材にかかる負荷が変動する。この負荷荷重の変動を考慮せず吊り角度を設定すると、その角度によっては部材の破断もしくは損傷の原因となる。

一例として、W=1,000kg の場合を下に示す。

一般的に日本のメーカーが採用している部材の安全係数6を曲解して、2トン・スリングは12トンまで使えるという判断をする者がいるが、これは大間違い。 当然のことながら、2トン・スリングは2トンまでしか使えない。吊角度により2トン以上の負荷がかかるような場合は、当然2トンより大きな耐加重の部材を 使わなければならない。

(5)スリングの吊り方三種と荷重の関係

ラウンドタイプのナイロン・スリングの場合、表示されている定格荷重はストレート吊りに使用した場合のものである。チョーカー吊りをした場合の使用荷重はその80%に減じることを理解すること。

またバスケット吊りの場合の使用荷重は2倍となる。

ストレート吊り

チョーカー吊り

バスケット吊り

(6)CMロードスターのインチング操作時の増加荷重

実験によると、CMロードスターのチェ−ンモーターの場合、昇降時にかかる過渡荷重(上昇スタート時、または下降ストップ時の瞬間最大荷重)は、静止荷重の1.4倍程度となる。(50HZの場合)

(7)吊り物のチェック体制の整備

催し物ごとに吊り物に関する責任者を事前に決めておき、その責任者は吊り作業中、および吊り作業終了後、吊り物が安全に行われているかどうかのチェックを行い、不備があった場合はただちに修正させることのできる権限を持たせること。

(8)機材昇降中の真下での作業禁止

吊り物が昇降中、その真下に入ることは自殺行為に等しい。メジャーによる高さ合わせなどの作業も、必要な高さ分のメジャーをあらかじめ引き出しておいて、 床面にガムテープなどで固定する、あるいは所定の長さのフック付きヒモなどを利用した重り付きループなどを利用することで、吊り物の昇降中にその真下に 入って作業をすることを避けることは可能である。

参考資料

 『台付けエワイヤー』と『玉掛けワイヤー』

※ 台付けワイヤー

現場でよく使われている吊点ワイヤーシステムの名称を『台付け』と言っているが、正しくは『玉掛け』 台付けとは、文字通り荷揚げ用に台に取り付けるワイヤーを示す。

※ 玉掛けワイヤー

吊点を作る為の、ワイヤーシステムを示す。

従って、専門取扱店に『台付けワイヤー』と注文すると、仕様の異なる発注となり、使用方法によっては十分な強度が得られず、事故につながることも考えられるので、充分注意すること。


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                           情報提供:
NPO法人 日本舞台技術安全協会


OdC



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